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広島地方裁判所 昭和60年(行ウ)6号 判決

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和五八年七月五日付けでなした滞納者岡吉恒男に係る第二次納税義務告知処分(ただし、裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、原告に対し、昭和五八年七月五日付け納付通知書をもって、岡吉恒男(以下「岡吉」という。)の滞納税金合計一二一万二四〇〇円につき、原告が納付すべき金額の限度額を四七一万三五四五円として、第二次納税義務を課する旨の告知処分(以下「本件処分」という。)をなした。

2  原告は、本件処分を不服として、被告に対し、昭和五八年八月二日、異議申立をしたが、被告は、同年一〇月二七日付けで異議を棄却する旨の決定をなし、原告は、さらに同年一一月二六日、広島国税不服審判所長に審査請求をし、右審判所長は、昭和六〇年二月二八日、本件処分に係る納付すべき金額の限度額のうち四五九万七八九五円を超える部分を取り消す旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をなした。

3  しかし、本件処分は、次に述べる理由により、右裁決によって一部取り消された後もなお第二次納税義務の課税要件を欠く違法な処分である。

(一) 本件処分は、岡吉が昭和五六年八月三日にその所有に係る別紙物件目録記載の各土地(以下「本件土地」という。)を原告に著しく低い額の対価で譲渡した(以下、右譲渡を「本件譲渡」という。)として、国税徴収法三九条の規定に基づいてなされたものである。

(二) しかしながら、本件譲渡の代金は、五三〇万円であって、右価格は、当時の適正な時価であり、仮に、時価よりも低額であるとしても、同条にいう「著しく低い額」ではないから、本件譲渡は、同条に規定する「無償又は著しく低い額の対価による譲渡」に該当しない。

4  原告は、本件処分(本件裁決により取り消された後のもの)の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3の(一)は認める。

同3の(二)のうち本件譲渡の対価が五三〇円であったことは認め、その余は争う。

三  抗弁

1  岡吉の滞納国税

岡吉は、法定納期限である昭和五六年三月一六日を経過した同年五五年分申告所得税合計一二一万二四〇〇円を滞納していた。

2  本件土地の低額譲渡

(一) 本件土地の譲渡とその時価

岡吉は、昭和五六年八月三日にその所有に係る本件土地を代金五三〇万円で原告に譲渡し、原告は、同年九月二二日に本件土地のうち経済的価値のない別紙物件目録三記載の土地(以下「本件三土地」という。)を除き、同目録一、二記載の土地(以下「本件一、二土地」という。)を河野守人に代金一〇五三万九一〇〇円で転売したが、右転売については、大手不動産会社である積水ハウス株式会社が仲介に当たっている上、売買当事者間に取引価額を左右する特別の事情が存在したことが窺えないことから、右転売は、当時の適正な価額で行われたものと認められる。そこで、右転売価額に地価の年間上昇率により時点修正を加えると、原告が本件土地を取得した時点での本件土地の時価は一〇三七万〇四七四円となる。

(二) 低額譲渡

国税徴収法三九条では、「著しく低い額」の譲渡の範囲について、所得税法五九条一項二号及び同法施行令一六九条におけるような形式的判断基準は明示されておらず、当該財産の譲渡が「著しく低い額」の対価によるものか否かは、その財産の種類、数量の多寡及び時価と対価の差額の大小等を総合的に考慮して、社会通念上、当該取引価額が通常の取引価額に比して著しく低いと認められるか否かによって相対的に判定すべきものであって、「著しく低い額の対価」とは、時価を大幅に下回る価額であればよいと解すべきである。

右の観点から、国税徴収法基本通達三九条関係6においても、「著しく低い額の対価によるものかどうかは、社会通念上、通常の取引に比べ著しく低い額の対価であるかどうかによって判定する。」とされ、さらに、(注)1において、「値幅のある財産については、特別の事情がない限り、時価のおおむね二分の一に満たない価額をもって、著しく低いと判定しても差し支えない。」とした上で、(注)2において、「対価が時価の二分の一を超えている場合においても、その行為の実態に照らし、時価と対価との差額に相当する金員等の無償譲渡等の処分がされていると認められる場合があることに留意する。」とされている。

通達が「値幅のある財産」について前記のような判断基準を示した理由は、不動産のように値幅のある財産については、時価を一義的に把握し得ないことにあるのであって、「おおむね二分の一」という基準は、税務遂行上の一応の目安にすぎないというべきである。したがって、特定の取引において、時価と対価との間に大幅な価額差があり、これが当事者間の通謀や譲受人の欺罔行為に由来する等の「特別の事情」が認められる場合には、そもそも「おおむね二分の一」という基準は妥当しないか、あるいはこれに依拠するとしても「おおむね」なる文言を社会通念に従って弾力的に解した上で、社会通念に従って右対価が大幅に低額か否かを判定すべきである。

本件譲渡においては、本件土地の取得日における時価の算定には客観性が認められ、原告が本件土地を時価より著しく低い価額で取得したために受けた利益が現実のものとして明確になっていること及びこれに加えて本件土地の前所有者である岡吉が多額の負債を有して所在不明となっていたことから、同人の債権者の一人であり、原告と親密な間柄であった中村勝義(以下「中村」という。)がこれを奇貨として、岡吉の親族の無思慮、窮迫に乗じて低額売却を慫慂して不当な廉価で原告に売却させたものであること、取得してから僅か一箇月余り後に時価相当額で転売していること等の特殊事情があり、これらを考慮すると、本件土地の取得価額が時価の二分の一をわずかに超えていたとしても、本件譲渡は、「著しく低い額の対価」による譲渡に当たると解するのが相当である。

3  徴収不足及びその基因

岡吉は、本件譲渡により確たる財産を持たない状態となり、滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる状態にあるが、右徴収不足は、本件土地の前記低額譲渡に基因するものである。

4  原告の第二次納税義務

そうすると、原告は、その受けた利益の限度である四五九万七八九五円につき第二次納税義務を負うから、本件処分は、本件裁決により維持された限度において適法である。

四  抗弁に対する認否及び反論

1  抗弁1の事実は不知。

2  抗弁2の(一)のうち岡吉が原告に本件土地を代金五三〇万円で譲渡したこと、原告が河野守人に本件土地のうち経済的価値のない本件三土地を除いた本件一、二土地を一〇五三万九一〇〇円で売却したことは認め、その余は争う。

本件土地の購入代金は五三〇万円であるが、原告は、本件譲渡後、自己の費用で測量、境界確認を行っており、これは、本来売主において負担すべき金員を売主に代わって負担したものといえるから、売買代金に含まれるべきものであり、低額譲渡の判定に当たって基準とすべき売買代金額は、五三〇万円に右費用八万九五五〇円を加えた五三八万九五五〇円とすべきである。

本件譲渡においては、売主である岡吉が売却を急いでいたこと、本件土地には抵当権が設定されていたこと、本件土地は未測量で、実測面積が不明であったこと、原告は、不動産業者であるから、土地の購入に当たっては、当然利益を見込むことが是認されることなどの事情があり、これらの事情は、通常の取引において価額の決定に当たって考慮されるべきものである。本件土地の譲渡価額五三〇万円は、右事情を反映した価額であり、本件譲渡当時の本件土地の現況に応じた通常取引価額である。

3  同2の(二)は争う。仮に、本件土地の昭和五六年八月三日当時の時価が被告主張の一〇三七万〇四七四円であるとしても、原告の購入代金は、以下に述べるとおり「著しく低い額」には該当しない。

(一) 「著しく低い額」とは、国税徴収法基本通達に照らし、土地のごとく値幅のある財産については、時価の二分の一に満たない額と解すべきである。

(二) 低額譲渡判定の基準とすべき本件土地の代金は、前記のとおり五三八万九五五〇円とすべきであるが、右金額はもちろん、購入代金五三〇万円も前記一〇三七万〇四七四円の五一パーセント強であって、いずれも時価の二分の一を超えており、「著しく低い額」に該当しない。

4  同3は否認する。

5  同4のうち、原告が第二次納税義務を負うこと、本件処分が適法であることは争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1(本件処分の存在)、同2(不服申立の経緯)及び同3の(一)(本件処分の根拠)の各事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件処分の適法性について判断する。

1  〈証拠〉によれば、抗弁1(岡吉の滞納国税)の事実が認められる。

2  次に、抗弁2について検討する。

(一)  抗弁2の(一)のうち岡吉が昭和五六年八月三日本件土地を原告に代金五三〇万円で譲渡したこと、原告が同年九月二二日本件土地のうち経済的価値のない本件三土地を除いた本件一、二土地を一〇五三万九一〇〇円で河野守人に売却したことは当事者間に争いがない。

(二)  そこで、本件譲渡が国税徴収法三九条にいう「著しく低い額の対価による譲渡」に該当するか否かについて判断する。

同条に規定する第二次納税義務の制度は、形式的には第三者に財産が帰属しているものの、実質的にはなお滞納者にその財産が帰属していると認めても公平を失しないような場合に、その形式的権利の帰属を否認しながら、しかも私法秩序を乱すことを避けつつ、形式的に財産が帰属している第三者に対し、補充的に滞納者の納税義務を負担させることによって租税徴収の確保を図る制度である。したがって、ここにいう「著しく低い額」に該当するか否かは、当該財産の種類、数量の多寡、時価と対価の差額の大小等を総合的に考慮して、当該取引価額が通常の取引価額、すなわち時価に比して社会通念上著しく低いと認められるか否かにより判断すべきものと解するのが相当である。

所得税法五九条(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)一項二号を受けた同法施行令一六九条は、「著しく低い価額の対価」を「資産の譲渡の時における価額の二分の一に満たない金額」と定めている。しかし、同法五九条は、資産の値上がりによる増加益が譲渡の時に発現したものとみなして課税することができる場合を定め、もって増加益に対する課税が繰り延べられることを防止することにあるのに対し、国税徴収法三九条は、前記のような制度の趣旨に照らし、衡平の理念に基づいて国税債権者と利益を享受している譲受人との調整を図ろうとしているものであって、両者は、その目的、利益状況を異にしているから、国税徴収法三九条にいう「著しく低い額の対価」を所得税法五九条の場合と同様に解さなければならないものではない。

ところで、国税徴収法基本通達三九条関係6は、本文において、「著しく低い額の対価によるものかどうかは、社会通念上、通常の取引に比べ著しく低い額の対価であるかどうかによって判定する。」と定め、その注において「1値幅のある財産については、特別の事情がない限り、時価のおおむね二分の一に満たない価額をもって著しく低いと判定しても差し支えない。2対価が時価の二分の一を超えている場合においても、その行為の実態に照らし、時価と対価との差額に相当する金員等の無償譲渡等の処分がされていると認められる場合があることに留意する。」と定めている。右注は、上場株式、社債等のように、一般に時価が明確な財産については、価額の差(時価と対価との差)が比較的僅少であっても「著しく低い」と判定すべき場合があるのに対し、不動産のように通常は人により評価額を異にし、値幅のある財産については価額の差がある程度開いていても直ちには「著しく低い」とはいえない場合があることに鑑みて設けられたものと解される。したがって、「おおむね二分の一」とは、文字通り二分の一前後のある程度幅を含んだ概念と解すべきであって、二分の一を境に低額譲渡と否とを峻別する趣旨ではなく、二分の一をある程度上回っても、諸般の事情に照らし、低額譲渡に当たる場合があることを示したものと解すべきである。

原告は、右基本通達に照らし、値幅のある財産の場合、「著しく低い額」とは、時価の二分の一に満たない額と解すべきであると主張するが、右説示に照らし採用することができない。

(三)  そこで、本件譲渡当時の本件土地の時価について検討するに、一般に土地の時価とは、一般の自由市場において、当該土地の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる適正な価格をいうものと解すべきである。ところで、本件土地のうち経済的価値のない本件三土地を除く本件一、二土地は、前記のとおり、本件譲渡のわずか一箇月余り後に原告から河野守人へ代金一〇五三万九一〇〇円で転売されているところ、〈証拠〉によれば、右転売については、大手不動産業者である積水ハウス株式会社が仲介に当たっていることが認められ、また、右転売において当事者間の取引価額を左右する特別の事情は窺われないこと、原告代表者も本人尋問において、右代金額は、適正な価額であると供述していることからすると、右転売は、当時の適正な時価でなされたものと認められる。

一般に、土地の時価の評価は、近隣地域における取引事例及び収益事例を参考としてなされるのが通常であるが、本件土地の場合、本件譲渡から右転売までは、極めて短期間であり、その間に時価が年間上昇率を逸脱して急激に増減したという事情や時価の形成に影響を及ぼすような土地の現況の変化も認められないから、本件土地の本件譲渡当時の時価は、右転売代金額に地価の年間上昇率により時点修正して求めるのが最も合理的な方法と認められる。

そして、〈証拠〉によれば、国土庁土地鑑定委員会発表の標準地番号広島熊野-一(本件土地の所在する熊野町の住宅地)の地価公示額の昭和五六年の年間上昇率は九・六パーセントであることが認められ、本件譲渡がなされた昭和五六年八月三日から右転売がなされた同年九月二二日までの期間を二箇月として計算すると、その間の上昇率は一・六パーセントとなるから、右上昇率により時点修正した一〇三七万〇四七四円をもって本件土地の本件譲渡当時の時価であると認めるのが相当である。〈証拠〉によると、本件土地(ただし、経済的価値のない本件三土地を除く。)の本件譲渡当時の価格につき、不動産鑑定士木曽忠明は五六六万〇九〇〇円と、不動産鑑定士佐々木幸三は一一九八万九一七〇円とそれぞれ鑑定評価しているが、右鑑定評価は、いずれも建付地を含む近隣の土地の取引事例等を参考に本件土地の本件譲渡当時の価格を算定したものであり、時点修正のほか、取引事例が建付地の場合の更地価格算定のための建物価格の評価、地域格差による補正等の手順を経たものであることが認められるから、その過程において誤差が生ずることを免れず、本件のように譲渡のわずか一箇月余り後という非常に近接した時期に他に転売したような事情がある場合においては、その転売価格が時価に即したものである限り、右転売価格を時点修正する方法に比して評価の信頼性は劣るといわざるを得ず、右鑑定評価額はいずれも採用しない(特に、右木曽の鑑定評価額は、前記転売価額一〇五三万九一〇〇円(右価額が当時の適正な時価であったことは前記認定のとおりである。)のわずか五〇・六パーセントにすぎず、前記地価の上昇率に照らし、本件譲渡当時の時価とはとうてい認め難く、採用できない。)。

原告は、本件譲渡においては、売主が売却を急いでいたこと、実測面積が不明であったこと、抵当権が設定されていたこと、原告は、不動産業者であり、土地の購入に当たり、転売利益を見込むことが是認されることなどの事情があり、本件土地の時価の算定に当たっては、右事情をも考慮すべきであると主張するが、低額譲渡に該当するか否かの判定の基準となるべき土地の時価とは、前説示のとおり、一般自由市場において、当該土地の現況に応じ、不特定多数の者の間で自由な取引が行われる場合に客観的に成立する適正な価格と解すべきであるから、売急ぎのような主観的事情や原告が不動産業者であることは考慮すべきではない。また、証人中村勝義の証言及び原告代表者本人尋問の結果によれば、本件譲渡当時、本件土地の実測はなされていなかったことが認められるが、〈証拠〉によれば、本件土地(ただし、本件三土地を除く。)の範囲及びその境界については、隣地所有者との間で特に争いはなかったことが認められるのであって、本件土地の測量をすることは格別困難なことではないから、実測測量がなされていなかったことは、右時価に特に影響があるものとは認められない。さらに、〈証拠〉によれば、本件譲渡当時、本件一、三土地上に双丸商事株式会社(〈証拠〉によれば、右会社は、いわゆる街の金融会社であることが認められる。)を抵当権者とする、債権額六〇〇万円の抵当権が設定されていたことが認められるが、このような抵当権の設定された土地の売買に当たっては、買主は、抵当権者に対し代金額をもって被担保債権額を代払いして抵当権を抹消することが可能であって、抵当権設定の事実は、右時価を左右するものではない。

したがって、原告の右主張は採用しない。

(四)  そこで、前記認定の時価を前提として、本件譲渡の対価が「著しく低い価額」であるか否か検討する。

原告は、測量等に要した費用八万九五五〇円は、本来売主である岡吉が負担すべき金員を原告が岡吉に代わって負担したものであるから、本来売買代金に含まれるべきものであり、低額譲渡の判定に当たって基準とすべき本件譲渡価額は、五三〇万円に右八万九五五〇円を加えた五三八万九五五〇円とすべきである旨主張するが、本件譲渡において、売主がその費用で測量や境界確定を行うことが約定されていたものとは認められないから、原告の右主張は採用の限りでない。

そうすると、本件譲渡の代金額五三〇万円は、右認定の時価である一〇三七万〇四七四円の五一・一パーセントに当たるにすぎない(なお、〈証拠〉によれば、原告が河野守人に転売した際の売買契約書には、売買代金額が一一一八万円と記載されていることが認められ、仮にこれを原告から右河野への転売価額とし、これに前記時点修正を加えた額一一〇〇万一一二〇円を時価とすると、五三〇万円はこれの四八・一七パーセントに当たる。)。さらに、〈証拠〉によれば、岡吉は、双丸商事株式会社や不動産業宮城商事有限会社を営んでいた中村らに対し多額の債務を負担していたが、債権者の追及を逃れるため、本件譲渡の数箇月前に中村に対して本件土地を売却することを委任したまま家出をし、数箇月間行方不明となっており、中村とは連絡を取っていなかったこと、岡吉の母菊江や妹孝枝は、中村らから岡吉の債務弁済の履行請求が同人の親族である自分らに対して厳しくなされたため、当初は利息だけでも支払ってこれに対処するとともに本件土地を維持しようと努めたけれども、利息の支払だけでは元本が減らないばかりか、弁済の資金もなくなってきたことから、本件土地を処分して岡吉の債務の整理ができればそれに越したことはないと考えるに至り、中村に対して本件土地の売却を依頼し、岡吉の債務の整理ができれば代金額にはこだわらないとして、全てを中村に任せたこと、中村は、本件土地について、売物件として店頭に掲示するなどの一般の販売活動は行わず、一箇月に一度位店頭に来ていた同業の原告の代表者が来店した際、本件土地の情報を伝えたことから、一週間ないし半月間という短期間のうちに急速に売買の交渉が進展して締結に至ったこと、右売買交渉は中村と原告代表者との間でなされ、岡吉やその母、妹は全く関与していなかったこと、本件一土地の面積は、登記簿上は一五五平方メートルであるが、実際にはこれをかなり上回ることが明らかであり(本件譲渡後になされた測量によれば、実面積は二六八・〇二平方メートルである。)、原告代表者は、中村から本件土地を紹介され、当初、本件一土地の面積を六〇坪あるものとして坪当たり八万円で四八〇万円なら買ってもよいとの意向を示したが、中村から岡吉の債務の返済に五三〇万円必要なので、右金額以上で買ってほしいと持ち掛けられ、現地を再検分した上で、本件一土地の実面積は、控え目に見ても七〇坪はあると判断し、同年八月三日、本件土地を代金五三〇万円で購入する旨の契約を締結したこと、右のような経過であって、中村と原告との間の売買交渉において、真剣な談判があったことは認め難く、むしろ、土地の売買にしてはあっさりと折れ合って締結に至ったとの印象が抱かれること、原告代表者は、昭和五七年頃、実質的には自分が経営する不動産業者の水星ハウス有限会社の監査役兼従業員として中村を雇い入れ、約二、三年間、月二〇万ないし四〇万円の給料を支給したこと、原告は、前記のとおり同年九月二二日、本件一、二土地を代金一〇五三万九一〇〇円で転売したが、原告代表者は、その当時、右転売価額が適正な価格であることを認識していたことが認められる。

右認定の事実によれば、原告は、本件譲渡の二箇月足らず後に本件一、二土地を本件譲渡代金を大幅に上回る金額で転売しているのであって、本件土地の本件譲渡当時の時価の算定には客観性が認められるばかりでなく、原告は、本件土地を時価より低い価額で取得したことによって受けた利益をごく短期間のうちに現実のものとして手中にしていることが認められるほか、原告は、本件譲渡当時、本件一土地の面積及び時価をほぼ正確に把握し、岡吉が不在であることに乗じて、五三〇万円という時価を大幅に下回る価額で購入することによって通常の転売利益を超える大幅な利益を得る目的を有しており、他方、中村においても、仲介人の立場を超えて、岡吉のいわば代理人的立場にありながら、原告の右の意図を認識しつつこれに協力したものと推認し得ないわけではない。かかる事情に照らすと、本件譲渡価額は、時価に比して社会通念上著しく低い額と認めるのが相当である。

原告は、本件譲渡価額は、時価の二分の一を超えており、これを低額譲渡であるとするのは、前記基本通達に反する旨主張するが、基本通達の解釈については前説示のとおりであって、前認定のような諸事情を勘案すると、時価の二分の一を上回る対価でなされた本件譲渡をもって、低額譲渡であると認定しても、前記通達に反するものとはいえない。

以上によれば、本件譲渡は、国税徴収法三九条にいう「著しく低い額の対価」による譲渡であるというべきである。

3  〈証拠〉によれば、抗弁3の事実(徴収不足及びその基因)が認められる。

4  そうすると、原告は、被告主張の利益の限度額(原告は、その点についてはなんら違法事由の主張をしていない。)である四五九万七八九五円につき第二次納税義務を負うことになる。したがって、本件裁決により維持された限度において、本件処分は、適法であるというべきである。

三  以上の説示に照らし、原告の本訴請求は、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高升五十雄 裁判官 山崎 宏 裁判官 蓮井俊治)

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